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    政府がスタートアップ創出に本格的に舵を切ってから、10年ほど経過したでしょうか。現在のグロース市場はあまり株価がふるわない状況にありますが、日本経済を牽引するエンジンとして、ベンチャーキャピタル(VC)による投資の重要性はかつてないほど高まっています。

    私の周囲でも、VCが大きなリターンを上げて「成功報酬」や「キャリード・インタレスト:Carried Interest」が生じるケースも目にするようになりました。

    一方で、成功報酬やキャリード・インタレストの処理が実務レベルで正しく認知・整理されていない場面に遭遇することも少なくありません。

    このような現状を踏まえ、本ブログではファンドの成功報酬の内容、成功報酬がキャリード・インタレストに変遷した理由、そして税務上な取り扱いの違いについて解説していきたいと思います。


    ファンドにおける「成功報酬」とは?

    VCやPE(プライベート・エクイティ)ファンドの運営において、GP(無限責任組合員、運用者)のインセンティブ設計の核となるのが「成功報酬」です。

    通常、ファンドの運営には固定費である「管理報酬(マネジメント・フィー)」と、一定のリターンを超えた際に支払われる「成功報酬」の2階建て構造が採用されます

    「管理報酬」と「成功報酬」の二つが設定される最大の理由は、「投資家(LP)とGPの利害を一致させること」にあります。

    ① エージェント問題(利益相反)の解消

    LPはファンドに資金を拠出し、GPはその運用を担います。もしGPの報酬が固定の管理報酬のみであれば、GPは「リスクを取ってリターンを最大化する」よりも「無難に運用して管理報酬を得続ける」という保守的なバイアスが働きやすくなります。

    ② アップサイドの共有

    成功報酬を設定することで、GPは投資家に利益をもたらして初めて、自身も大きな経済的利益を得ることができます。これにより、GPは投資先のバリューアップや出口戦略(IPO/M&A)の実現に向けて、最大限の努力を払う動機付けを得られます。また、成功報酬は、GPが「自分たちの運用能力で確実にリターンを出せる」という事実を投資家に示す方法でもあります。

    「成功報酬」はGPとLPの利害を一致させ、ファンド運用の規律を担保するものでもあります。

     

    管理報酬と成功報酬の「2/20(トゥー・アンド・トゥエンティ)」

    一般的に、成功報酬はどのような根拠で設定されるのでしょうか。

    未公開株投資などに代表されるオルタナティブ投資の世界では、伝統的に「2/20(Two and Twenty)」という報酬体系がグローバルスタンダードとされています。

    ・Two(管理報酬、2%):ファンドの出資約束金額に対して課される管理報酬が年率2%程度とされます。これはGPの給与やオフィス賃料などの「固定費(ランニングコスト)」をカバーするために利用されます。

    ・Twenty(成功報酬、20%):LPに元本を返還した後に残った「超過利益」に対し、その20%をGPが受け取ります。

    また、GPが成功報酬を受け取る前に、最低限達成すべき利回り(ハードル・レート)を設定する場合もあります。

    成功報酬の計算(具体例)

    例:組成金額100億円のファンド、成功報酬20%、ハードル・レートなし(単純化のため)

      ・投資実行:100億円を複数のスタートアップに投資。

      ・回収(Exit): 投資先を売却し150億円がファンドに還流。

    上記を実際のキャッシュフローに当てはめると、以下のようなイメージになります。

    ① 元本返還:LPに対して出資元本の100億円を優先的に返還。

    ② 超過利益の算出:150億円-100億円=50億円がファンドの「利益(キャピタルゲイン)」となる。

    ③ 成功報酬の分配:

    • GP(運用者):50億円 × 20% = 10億円
    • LP(投資家):50億円 × 80% = 40億円

    この場合、GPは管理報酬に加え、運用の成功報酬として10億円を手にすることになります。

     

    「成功報酬」が「キャリード・インタレスト」として整理されるに至った理由

    ファンドで成功報酬が設定されるのは上記の通りですが、ここ最近、その成功報酬を「役務の対価」ではなく、「キャリード・インタレスト(利益の分配)」として整理されることが多くなってきました。これには歴史的な経緯と、ファンド運営の実態に即した法的・税務的な論理構成があります。

    ① 投資家と同じリスクを負うパートナーシップの概念

    もともとVCやPEファンドは、「共同事業(パートナーシップ)」という形態をとっています。GP(運用者)は単なる雇われのマネージャーではなく、自らも出資し、無限責任を負って事業を遂行する共同事業者です。共同事業から生じた利益は共同事業者(GPとLP)の間で分け合うのが自然ですので、GPが受け取るのは「役務の対価(給与・報酬)」ではなく「事業で得た果実の分け前(利益分配)=キャリード・インタレスト」であるべきという考え方が定着しました。

    ② 税務上のメリット

    最も大きな理由は税務上のメリットにあります。

    報酬(Fee)として受け取った場合: 所得の性質は「給与」や「事業所得」となり、最高税率約55%の総合課税となります。一方、キャリー(利益分配)として受け取った場合、 ファンドが株式売却で得た「株式譲渡益(キャピタルゲイン)」として約20%の分離課税が適用できる可能性が開かれます

     

    変遷の経緯

    日本において「キャリード・インタレスト」の取り扱いが現在のような形に整理され、実務的に定着したのは、ここ数年(2021年以降)の出来事と言えるでしょう。それまでファンドには「役務の対価」型が多く、キャリード・インタレストは税務上のリスクが不透明な「グレーゾーン」状態が長く続いていました。

    黎明期〜2010年代、税務上のリスクがあるグレーゾーン時代

    1998年にLPS法(投資事業有限責任組合法)が整備されファンドの法的な体系が整備されましたが、GPが受け取る分配金の所得区分については明確な規定がありませんでした。

    このため、GPが「利益の分配なのだから分離課税(20%)でいけるはずだ」と考えても、税務署から「実態は役務の対価(給与や雑所得)ではないか?」と指摘され、所得税として(最大55%の)課税を受けるリスクがあるという、非常に不透明な状態になっていました。

    当時からキャリード・インタレストとして処理をしていたファンドはありましたが、税務的な公式見解がないため、あくまで各ファンドの自己責任による処理となっていました。

    2021年(令和3年)金融庁・国税庁による公式見解の発表

    その後、日本を国際金融センターとして発展させるという政府方針の後押しもあり、2021年4月に金融庁が国税庁に対して「事前照会」を行い、キャリード・インタレストとして処理することに対しての見解が出されました。

    国税庁の見解(所得税基本通達)

    「キャリード・インタレストを受け取る場合の所得税基本通達 36・37 共-19 の適用について(情報)」

    https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/0021003-191.pdf

    一定の合理的な要件を満たすキャリード・インタレストについては、「株式等の譲渡所得」として分離課税(20.315%)を適用して差し支えないという見解が公式に示されました。これにより、日本のGPもキャリード・インタレストを「株式所得として(20%で)申告できる」ようになり、日本国内でのファンド組成のハードルが下がりました。

    なぜ最近になって変わったのか?

    この変遷の背景には、単なる税制上の議論だけでなく、日本の「スタートアップ政策」が強く関わっています。

    米国や英国などの主要国では、キャリード・インタレストはキャピタルゲイン課税(低い税率)として扱われるのが一般的です。日本だけ55%課税される可能性がある状態では、グローバルな運用者が日本でファンドを組成することを忌避するようになります。

    一方で、当時の岸田政権の「スタートアップ育成5か年計画」などに見られるように、スタートアップ・エコシステムの構築は日本の経済成長を支える要でした。ここでVCにリスクマネーの供給を促すためには、その運用者であるGPに適切なインセンティブ(=税引後の高いリターン)を与える必要があり、政府が率先してキャピタルゲイン課税を認めるに至ったのです。

     

    キャリード・インタレスト化による3つの税務メリット

    キャリード・インタレストとして処理する税務上のメリットは3つあります。

    ① 所得税のメリット(約55%→20.315%)

    「個人」GPに限られますが、所得税のメリットがあります。

    日本の所得税法は、所得をその発生原因に応じて10種類(給与、事業、譲渡、配当など)に分類しています。

    ・役務の対価として受け取る場合(約55%)

    役務の対価として受け取ると、それは給与所得や事業所得(または雑所得)に分類されます。これらは他の所得(役員報酬など)と合算され、累進税率(5%~45%)+住民税(10%)が適用されます。成功報酬は高額になりやすいため、多くの場合、最高税率である約55%が適用されることになります。

    ・キャリード・インタレストとして受け取る場合(20.315%)

    キャリード・インタレストとして受け取る場合、ファンドが得た利益の「性質」を保ったまま、GPに所得を帰属させたと考えます。

    つまり、GPが共同事業者の一人として、組合が稼いだ「株式譲渡益」の一部を(契約で決めた高い比率で)受け取っていると考えます。

    この場合、GPの所得は株式譲渡所得となり、申告分離課税が適用されるため、どれだけ多額のキャリーでも、税率は「20.315%」で固定されます。

    ② 源泉徴収のメリット

    「個人」GPの場合、源泉徴収上のメリットもあります。

    ・役務の対価として支払う場合

    個人に対して「コンサルティング料」や「報酬」の名目で支払う場合は、所得税法第204条第1項第2号(弁護士、公認会計士、税理士等の報酬に準ずるもの)などに該当し、原則として源泉徴収が必要です。成功報酬もこの類のものと考えられ、源泉徴収が必要になります。

    ・キャリード・インタレスト(利益分配)として支払う場合

    LPS(投資事業有限責任組合)からの「利益の分配」として支払われる場合、その原資が「株式の譲渡益」であれば、原則として源泉徴収の対象外です。 株式の譲渡所得は、受け取る側が確定申告で納税する性質のものであり、支払側(LPS)で源泉徴収を行う義務はありません。

    ③ 消費税のメリット

    キャリード・インタレストにおいては、先述の所得税のメリットのみで語られることが多いですが、消費税についても大きなメリットがあります。

    消費税が課税されるためには、「資産の譲渡、貸付けまたは役務の提供」の対価であることが必要です。成功報酬では、役務の提供の対価として消費税が課される一方で、キャリーは組合契約に基づく「投資成果の分配(キャピタルゲインの配分)」であるため、役務を提供した対価とはみなされず、消費税の課税対象外(不課税)となります。

    これをGP、LPSの立場からみると以下のようなメリットがあります。

    ・GPのメリット

    役務の対価として受け取ると(課税売上高が1,000万円を超えた場合に)GPは消費税の納税義務がありますが、不課税の「利益分配」であれば、その分についての消費税負担(申告およびインボイス対応等の事務負担)を考慮する必要がありません。

    ・LPSのメリット

    役務の対価として支払うと消費税が生じますが、不課税の「利益分配」であれば、消費税を支払う必要がなく、LPに対してキャッシュリターンを最大化させるメリットがあります。

    消費税の仕組みは、「売上により預かった消費税」から「仕入による支払った消費税」を差し引いて納税します。

    • ファンド(LPS)の主な売上:有価証券の譲渡(非課税売上)→消費税が課されない
    • ファンド(LPS)の主な仕入:管理報酬や成功報酬、弁護士費用など→消費税が課される

    このように、ファンドの売上のほとんどが非課税である以上、ファンドが支払った消費税は、国から還付を受けることができません。つまり支払った消費税はそのまま「ファンドの純然たるコスト(費用)」になってしまうリスクが内在していることになります。

    おわりに

    本記事では、役務の対価としての成功報酬からキャリード・インタレストへの変遷と、税務上のメリットついて解説してきました。

    ただし、これらのメリットを享受するためには、2021年に示された「3つの要件」を厳格に満たす必要があり、実務上の落とし穴はこの要件に潜んでいます。

    次回は、この「3つの要件」の具体的な内容と、実務上の留意点について深掘りしていきたいと思います。